BPRで仕事の当たり前を根本から書き換える
皆さんは、役所の窓口や銀行の手続きで、いくつもの書類に同じ住所や氏名を何度も書かされた経験はありませんか。一つの手続きのために複数の窓口をたらい回しにされ、ようやく終わる頃にはすっかり疲れ切ってしまう。こうした 非効率な当たり前 を、単に少し速くするのではなく、ゼロから全く新しい形に作り変えてしまおうというのが、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)という考え方です。例えば、一度書けば全ての部署にデータが届くようにしたり、そもそも書かなくて済む仕組みを構築したりする。現状のやり方を前提にせず、本来あるべき姿を追い求めるこの手法は、変化の激しい現代ビジネスにおいて、組織が劇的に進化するための最大の鍵となります。
改善の積み重ねを越えた劇的な変化を目指す
BPRを理解する上で最も大切なのは、日本企業が得意とする 改善 との違いを知ることです。改善は、今のやり方を基本的には変えず、無駄を少しずつ削っていく積み上げ方式の取り組みです。一方のBPRは、一度真っ白なキャンバスに戻って、この仕事はそもそも必要なのか、もし明日から会社を立ち上げるならどうやるか を考える抜本的な再構築です。
よく使われる例えに、古い家のリフォームと建て替えがあります。雨漏りを直したり壁紙を張り替えたりするのが改善だとすれば、土台から全て取り壊して今のライフスタイルに最適な最新の住宅を建てるのがBPRです。もちろんエネルギーは必要ですが、その分、得られる効果はコスト削減やスピード向上といった形で、桁違いの成果となって現れます。
デジタル化の前にまずプロセスを疑う知恵
最近では、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進める上でもBPRの重要性が再認識されています。デジタル庁が掲げている方針の中に、システムを入れる前にまずBPRを という考え方があります。これは、古く非効率な業務プロセスのままIT化しても、単に 効率の悪いデジタル作業 が増えるだけだからです。
例えば、デジタル庁の自治体窓口改革(窓口BPR) では、住民が申請書を書かなくて済む 書かない窓口 の実現に向け、これまでの事務の流れを根本から見直しています。技術を導入すること自体が目的ではなく、いかにして人々の負担を減らし、価値のある時間を増やすか。そのためのプロセス設計こそが、BPRの本質なのです。
組織の壁を越えて全体最適を追求する
BPRが目指すのは、一つの部署の中だけでなく、会社全体、あるいは取引先までを含めた全体最適です。従来の組織は、営業、製造、総務といった具合に機能ごとに分断されがちで、その隙間に多くの無駄が潜んでいました。
例えば、注文を受けてから商品が届くまでの流れ。それぞれの部署が自分の持ち場だけを最適化しても、部署間の受け渡しに数日かかっていれば、顧客満足度は上がりません。BPRでは、こうした 顧客に価値を届ける一連の流れ を垂直に切り出し、ITを活用しながら一つのスムーズなベルトコンベアのように再編成します。組織の都合ではなく、常に顧客の視点でプロセスを見直すことが、競争力を生む源泉となります。
革新を支える情報技術の役割
BPRとITは、切っても切れない密接な関係にあります。かつては不可能だった大胆な再設計も、最新のテクノロジーを使えば実現可能になります。例えば、グローバル企業の動きをリアルタイムで統合・管理するERP(企業資源計画)や、人の手作業を自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などがその代表例です。
しかし、ここでも主役はあくまで 人間による設計 です。AIやシステムは、人間が描き直した新しいプロセスを力強く支えるためのエンジンに過ぎません。どんなに高性能なエンジンを積んでも、車を走らせる道路(プロセス)がデコボコであれば、スピードを出すことはできません。技術をフルに活かすためにも、まずは真っ当な道路を設計し直すBPRの視点が不可欠となるのです。
成功のために乗り越えるべき壁
もちろん、これまでのやり方を根本から変えるBPRには、組織内の強い抵抗が伴うことも少なくありません。慣れ親しんだ仕事が変わることは、誰にとっても不安なものです。そのため、BPRを成功させるには、経営トップの強い意志とリーダーシップが欠かせません。
また、単に従業員に新しいルールを押し付けるのではなく、なぜこの変化が必要なのか、それが最後には自分たちの仕事をどう楽にしてくれるのかというビジョンを共有することが大切です。BPRは単なるリストラやコストカットの道具ではなく、人間を付加価値の低い単純作業から解放し、より創造的で人間らしい仕事にシフトさせるための 聖域なき改革 なのです。
ITパスポート試験で問われるBPRの急所
試験対策としては、BPRが 根本的、抜本的、劇的 という、非常に強い言葉で定義されていることを覚えておきましょう。部分的な改善を指す言葉が出てきたら、それはBPRではありません。
また、BPRとセットで出題されやすい用語にBPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)があります。こちらは、BPRで再設計したプロセスを一度きりで終わらせず、PDCAサイクルを回し続けて継続的に管理・改善していく手法を指します。いわば、BPRが大規模な手術だとすれば、BPMは術後の体調管理や健康維持のような関係です。これらを混同しないように整理しておくと、得点力がぐっと高まります。
過去問で知識を定着させる
実際の出題形式を見て、BPRのキーワードを脳に刻み込みましょう。
令和5年度 問13
既存の組織構造や業務プロセスを抜本的に見直し、再構築することによって、コスト、品質、サービス、スピードなどのパフォーマンスを劇的に改善しようとする手法はどれか。
ア BPO
イ BPR
ウ M&A
エ OJT
正解はイです。 抜本的 劇的 という言葉があれば、迷わずBPRを選んでください。
令和4年度 問29
企業の目標を達成するために、業務内容、業務の流れ、組織構造などを分析し、それらを全体最適の観点から再設計(リエンジニアリング)する考え方はどれか。
ア BPR
イ CRM
ウ KGI
エ SFA
正解はアです。全体最適という視点もBPRの重要な特徴の一つです。
まとめ 進化の波をチャンスに変える
私たちは今、これまでの常識が通用しない新しい時代の入り口に立っています。古いプロセスにしがみつき、少しずつの改善で急場をしのぐだけでは、世界の変化に取り残されてしまうかもしれません。
しかし逆に考えれば、BPRの発想を持って自分の周りの無駄を疑い、新しい仕組みをデザインする力を持てば、それは皆さんにとって計り知れないチャンスになります。ITパスポートで学ぶBPRの知識を、単なる記号として覚えるのではなく、 目の前の不便を解決するための武器 として捉えてみてください。皆さんが勇気を持ってプロセスを書き換えたその先には、よりスマートで、より自分らしく働ける未来が必ず待っています。
