アローダイアグラムでプロジェクトの急所を見極める
皆さんは、大規模なイベントの準備や、品数が多い夕食の調理などで、何から手をつければ良いか分からず頭を抱えたことはありませんか。例えば、唐揚げとサラダと汁物を同時に作る場合。鶏肉に下味をつけている間に野菜を切り、その合間に鍋の火加減を見る。もし途中で材料の買い忘れに気づけば、全ての工程がストップしてしまうかもしれません。複数の作業が複雑に絡み合う状況で、どの作業が全体の完了時間に最も影響を与えるのか、そしてどこに時間的な余裕があるのかを。頭の中だけで整理するのは非常に困難です。こうした段取りの悩みを一気に解消し、プロジェクトを最短で成功に導くための強力な地図となるのが、アローダイアグラムという手法です。
仕事の漏れと遅れを可視化する地図の役割
アローダイアグラムとは、プロジェクトを構成する一つひとつの作業を矢印で繋ぎ、その順序関係と必要な時間を視覚的に表した図のことです。別名でPERT図とも呼ばれます。この図を眺めるだけで、どの作業が終わらないと次のステップに進めないのか、どの作業を並行して進めることができるのかが。一目で把握できるようになります。
不慣れなプロジェクトでは、つい目の前の作業に集中してしまいがちですが、全体像が見えていないと、思わぬところで ボトルネック が発生します。例えば、広報用のチラシを印刷する作業。チラシのデザインが終わっていても、掲載するイベントの詳細確認が遅れていれば、印刷工程には進めません。このように、目に見えない作業の依存関係を白日のもとにさらすことが、アローダイアグラムの第一歩となります。
丸と矢印で描くプロジェクトの全体像
図の書き方は非常にシンプルです。作業そのものを矢印で表し、その矢印の根元と先端に丸を描きます。この丸は結合点と呼ばれ、作業の開始や終了という 節目 を意味しています。
矢印の上には作業の内容や、その作業にかかる日数や時間を記載します。複数の矢印が一つの丸に向かっている場合は、その丸から始まる次の作業は、向かってきた全ての作業が完了するまで開始できないというルールがあります。逆に、一つの丸から複数の矢印が出ている場合は、それらの作業を同時に並行してスタートできることを示しています。このように、極めてシンプルなルールを積み重ねることで、どんなに複雑なビジネスプロジェクトでも、一本の線として繋がった物語のように読み解くことが可能になるのです。
最も時間がかかる経路としてのクリティカルパス
アローダイアグラムを学ぶ上で、最も重要であり、かつ試験でも頻出するのがクリティカルパスという概念です。これは、プロジェクトのスタートからゴールまでを結ぶ経路の中で、合計の所要時間が最も長くなる道のりのことを指します。
なぜ 最も長い 経路が重要なのでしょうか。それは、このクリティカルパス上の作業が一日でも遅れると、プロジェクト全体の完了日がそのまま一日遅れてしまうからです。いわば、プロジェクト全体の運命を左右する 急所 とも言える経路です。マネージャーはこのクリティカルパスを正確に特定し、そこに熟練のスタッフを配置したり、進捗を厳重に管理したりすることで、期限通りの完成を目指します。最短の完了日数を知るためには、皮肉なことに 最も時間がかかるルート を見極める必要がある。これがプロジェクト管理の面白いところでもあります。
余裕時間を味方につけるスケジュールの読み方
クリティカルパス以外の経路には、多少作業が遅れても全体の完了日には影響を及ぼさない 余裕時間 が存在します。これをスラックと呼ぶこともあります。
例えば、クリティカルパスが10日間のプロジェクトにおいて、別のルートの作業合計が7日だったとします。この場合、そのルートにある作業は最大で3日間までなら開始を遅らせたり、作業の手を休めたりしても、プロジェクト全体の終了日は変わりません。この余裕を知っていることは、現場の心理的な負担を減らすだけでなく、トラブルが起きた際のリカバリー計画を立てる上でも非常に有利に働きます。どこを死守すべきで、どこなら融通が利くのか。その判断基準を与えてくれるのがアローダイアグラムのもう一つの利点なのです。
効率的なプロジェクト管理を支える技術の知恵
アローダイアグラムを活用する際には、ダミー作業というテクニックが使われることもあります。これは、実際の作業時間はゼロですが、作業の順序関係だけを示すために引く点線の矢印のことです。
例えば、作業Aと作業Bの両方が終わらないと作業Cを始められないが、作業Dは作業Aだけ終われば始められる、というような複雑な依存関係を描く際に、図が矛盾しないように調整する役割を果たします。こうした細かなテクニックを駆使することで、実務における多種多様な制約条件を漏れなく図の中に盛り込むことができます。また、作業時間の見積もりに 楽観的 悲観的 標準的 という3つの視点を取り入れて期待値を算出するPERTの考え方を組み合わせれば、より精度の高いスケジュール管理が実現します。
試験に必ず出る計算問題の解き方
ITパスポート試験でアローダイアグラムの問題が出たときは、落ち着いて図の左側から右側へと数字を足していく作業を行いましょう。
まず、スタート地点を0日目とし、それぞれの丸に そこで作業が完了する最速の時間 を書き込んでいきます。複数の矢印が合流する丸では、それぞれのルートから計算された数字のうち、最も大きい方を採用します。これが、その地点での最短完了時間になります。右端のゴールにたどり着いた時の数字が、プロジェクト全体の最短所要日数です。
次に、今度はゴールからスタートに向かって、各作業の 最も遅い開始可能時期 を探るために逆算していきます。今度は数字の小さい方を選んでいくことになります。この、行きと帰りの計算結果が一致する地点を繋いだものがクリティカルパスとなります。文字で見ると難しく感じるかもしれませんが、実際にペンを持って図の上に数字を書き込んでいけば、まるでパズルを解くような感覚で正解にたどり着けるはずです。
ITパスポート過去問で実戦力を鍛える
それでは、実際の試験問題でクリティカルパスを見つける練習をしてみましょう。
令和4年度 問42
あるプロジェクトのアローダイアグラムにおいて、クリティカルパス上の作業の所要日数を1日短縮した。プロジェクト全体の所要日数はどうなるか。
ア 必ず1日短縮される。
イ 短縮されるとは限らない。
ウ 変わらない。
エ 1日以上短縮される。
正解はイです。もし、クリティカルパスと同じ長さの別経路が存在する場合、一方を1日短縮しても、もう一方が残っているため全体の日数は変わりません。ひっかけ問題としてよく出るパターンですので、複数の経路があることを常に意識しましょう。
令和3年度 問49
複数の作業が直列や並列に組み合わされたプロジェクトの合計所要日数を求める際に使用される図はどれか。
ア アローダイアグラム
イ ガントチャート
ウ レーダーチャート
エ 特性要因図
正解はアです。イのガントチャートも工程管理に使われますが、作業同士の繋がりや計算にはアローダイアグラムが適しています。
流れを読み解く力が成功を左右する
アローダイアグラムは、一度書き方を覚えてしまえば、どんなに忙しい時期でも心に余裕を持つための強力なツールになります。単なる試験対策の用語として暗記するのではなく、自分の大切な時間やチームの力をどこに集中させるべきかを教えてくれる 指針 と捉えてみてください。
一見すると複雑に見える矢印の束も、丁寧に辿っていけば必ず一本の太い道が見えてきます。その道さえ見失わなければ、大きなプロジェクトの成功は、もう目の前です。段取りを制する者が仕事を制し、未来を切り拓く。アローダイアグラムが教えてくれるこの教訓を、今日からの皆さんの活動にぜひ活かしてみてください。
